放課後の教室は、嫌いだ。
「教室ってこんな広かったっけ・・・?」
あたしがそう呟くと、ハヤトが日誌から顔を上げた。
「あ、言われてみると結構広いな。掃除、頑張らないと早く帰れないよ?」
「言われなくても頑張るよ。」
あたしは掃除当番、ハヤトは日直。
二人きりの教室は、やたらと広く感じた。
窓からかすかに聞こえる運動部の声と、ハヤトの走らせるシャープペンの音。
静かな空間に、押し潰されそう。
だから放課後の教室は嫌いなのに。
「日誌書き終わったら少しは手伝うからさ、それまで頑張れよ。」
ハヤトが居ることが唯一の救いかもしれない。
「うん、ありがと。」
あたしはため息をついて再びほうきを動かし始めた。
「そういえば、さ。」
ハヤトがふと呟いた。
「Bis子、最近路上ライブしてないよな。」
あたしは片付けてしまったメガホンを思い出す。
最後にグリ子と歌ったのはいつだっけ。
「ハヤトも最近公園でスケボーの練習してないよね。
今日なんか普通に歩いて学校来たし。」
ハヤトの机にいつもの赤いヘルメットがかかっていないのは寂しい。
ハヤトもヘルメットを片付けたのだろうか。
「しょうがないよ。」ハヤトが、少し寂しそうに笑って言った。
「受験、なんだから。」
「・・・うん。」
迫ってくるそれは、少しずつあたし達から何かを削りとっていく。
歌わないあたしも、スケボーに乗らないハヤトも、この広いだけの教室みたいだ。
・・・あたしの嫌いな。
空っぽの部分を持て余して、焦ってがむしゃらに詰め込んで。
でも。
「しょうがないよね。」
もう一度、自分に、この教室に言い聞かせるように呟いた。
道は厳しくて、目眩がしそうだけど。一人じゃないってわかってる。
ハヤトが、日誌を書きながら言った。
「受験終わったらさ、またBis子の歌聞きたいな。」
あたしは下を向いたままのハヤトに笑いかけた。
大丈夫。ハヤトがいるから頑張れる。
「じゃあ、受験終わったらあたしにスケボーの乗り方教えてね。」
「いいよ。・・・約束、しようか。」
「うん。」
ハヤトが、ちょっとだけ照れ臭そうに小指を差しだした。
それに、あたしの指をからめて。
指きりなんてするの何年ぶりかな。
二人で顔を見合わせて笑った。


放課後の教室。
あたしは前ほど嫌いじゃなくなった。
ちゃんとわかったから。
空っぽの教室が朝には生徒で賑やかになるように、
歌わないあたしだっていつまでも歌わないわけじゃない。
受験終わったら、ハヤトにどんな歌聞かせようかな?





なんか暗い。そんなはずじゃなかったのに。
あたしの設定だと二人は受験生。(中3
しかも同じクラスみたいだし。
そんなこんなで受験の暗い話になってしまった(汗

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