また、聞こえた。
底の暗いほうから、濃い青い色に紛れて響く、幼い、綺麗な歌声。
周りの魚達は気付いてないみたいだけどあたしには確かに聞こえる。
きこえていますか。
呼び掛けるように声が聞こえる。
歌っているのは誰？歌っているのは女の子。
だってアイドルのあたしより高い声だもの。
綺麗で透き通るような声にあたしは歌手として少し嫉妬した。
歌はとぎれとぎれに、でも確かに聞こえる。
きこえていますか。
でもあたしは返事ができない。
あたしの声はあんなに綺麗じゃないから届くかどうか不安なの。
声を届けたいのに声が出ない。もどかしい。
なんか変。まるで恋みたい。姿も見えない女の子相手に。
あたしは底を覗き込んだ。歌はもう聞こえなかった。
泣いているの？一人じゃないよ。伝えたいのに小さい声しか出ない。
あたしの声もあれくらい透き通っていればよかったのに。
こんなふうに遠くから呟くしかできないなんて。
きこえていますか。あたしはここよ。
届くわけない。もどかしい。
もう歌は聞こえない。
・・・・決めた。
明日のボイストレーニングは休みにしよう。
それであの子に会いに行こう。届かないなら届けに行けばいいじゃない。
あたしって積極的。なんか変。恋みたい。そう考えて少し笑った。
どんな子なんだろう？楽しみ。
もうすぐあえるよ。
あたしはもう歌の響かない底に小さく、でもはっきりと呼び掛けた。
キラテトのハズなのにテトラ出てこないし。
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