「ねえ、これって一体何のイベント?」
ピンクのハートにまみれた店内を不思議そうに見ているアゲハの横で俺はため息をついた。
毎年同じようなため息をついている気がする。
それもこれもあのモテ過ぎる兄貴のせいだ。絶対そうだ。
断じて俺がモテないせいではない。
なんでチョコ売り場になんて来てしまったんだろう。
アゲハはブルーな俺なんか気にも止めず、色々な種類のチョコをいちいち珍しそうに眺めている。
結構楽しそうだ。やっぱ女子はこういうの好きだな。
しかし、意味は全く分かっていない様子。
今年はアゲハが居るから一つは貰えるかな・・・とか期待していたけどこの様子じゃそれも無理そうだ。
こんな事ならちゃんと教えておくんだった。
自然と、もう一回ため息。
売り場は女の子ばかりで俺はさっきから居心地が悪かった。
そりゃそうか。バレンタインなんてほぼ女子のためのイベントだ。
チョコを渡すのは女の子で、男に行動権は無い。
この日ほど男に生まれた事を後悔する日は無いと思う。
しかも俺の家には、毎年山ほどチョコをもらってる兄貴が居るからなおさらだ。
なんで世の中こんな不公平なんだよ。
なんか泣きたい。
「わあ!これおいしそう!」
暗い気分の俺を置いて、やっぱりアゲハは楽しそうにチョコを見ている。
俺なんか気にならないようだ・・・
・・・が、突然こっちに振り向いた。
手にはそこに積んであったピンクの花柄の箱。
なんだかイヤな予感がした。
「ね、サイバーこれ買ってよ!」
「は?」
そう来たか・・・。
「俺はやだ。ぜってー嫌だ。」
確かに美味しそうだけどさ。
「何でよ!おいしそうじゃない!」
「あのな・・・この時期に男がプレゼント用チョコを買うなんて恥だぜ!」
「・・・なんで?」
が、バレンタインを知らないアゲハに伝わるはずも無く。
「自分で買ってこいよ。」
「だってあたし今財布持ってないもん。」
しょうがない・・・仕方なく俺の財布をアゲハに渡した。
「じゃあ俺様が特別に買ってやるから・・・
 その代わり!一人で買ってこい。俺は向こうにいる」
「・・・はーい。」
アゲハは俺から財布を受け取ると嬉しそうにレジへ向かって行った。
俺は居心地の悪い場所から抜け出すべく、さっさと売り場を後にした。
もう今日は帰ろう。家でゲームでもして憂さ晴らしだ。
「サイバー。買ってきたよー。」
「おう。」
やっぱりアゲハは俺とは逆に楽しそうで。
「よし、食べようっと。」
「もう開けるのかよ!?」
早速包みを開け出したアゲハに俺は思わずツッこんだ。
売り場から少しは離れてるとはいえ、こんなところで開けるとは・・・
「家に帰ってからにしろよ・・・」
「いいじゃん別に。いただきまーす。」
けど、アゲハはあまり気にしていないようだった。
そのまま大きなチョコを嬉しそうに・・・
が、かじる寸前で止まった。
何かを思いついたように笑って。
チョコを真ん中で、割った。
「はい。」
「へ?」
半分に割ったチョコを差し出してくるアゲハに俺はマヌケな声を出した。
?マークを点滅させてる俺にアゲハは笑って。
「はい、半分こ。」
俺はそっとチョコを受け取った。なんか顔が熱い気がする。
これは俺の金で買ったチョコだ。でも、今はアゲハのもので。
アゲハが、くれたって事・・・だよな。
「これも貰ったうちに入れていいよな・・・?」
「?何の話?」
「こっちの話!」
照れ隠しに勢いよくチョコを頬張った。
「気になるじゃない!教えなさいよ!」
「やだね!」

ビターは俺には少し苦かったけど、それでも、幸せな甘さだった。

ハッピーバレンタイン。
生まれて始めて、そう思えた気がする。





サイアゲバレンタイン話。サイバーはモテない(笑
なんか甘くし過ぎて恥ずかしい・・・。
アゲハは甘いもの苦手そう。あんこ嫌いらしいし。
『サイバーの性格がちゃんとつかめてない気がする』再び・・・

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